おばあちゃんのひとりごと

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将軍家光をにらみつけた松平信綱

「人間の器量」童門冬二著より

……何よりも部下のために心を砕く……
                         松平信綱

 --省略ーー
 徳川三代将軍家光は、活発な将軍でスポーツが好きだった。特に鷹狩りを好んだ。たく
さんの部下をつれて、山野を歩き、獲物をのトリをさがしてタカに襲わせる遊びである。家光
は、このタカ狩りを「公の仕事だ」と考えていた。タカ狩りによって、部下の心身の鍛練ができ
るからだ。
 が、動員される部下は「あれは将軍様の趣味だ」と考えていた。タカ狩りでは、山野からトリ
を追い立て、タカがトリをくわえる瞬間も、快感を覚えるのも家光ひとりである。
 また、獲物も江戸城に持って帰っても、それを料理して食べるのは、家光と一部の重臣だけ
だ。
 ヒラにすればなにもいいことはない。
 こういうように、上と下の考えるタカ狩りにギャップが生じているとき、家光はまた墨田川のほ
とりにタカ狩りに出かけた。が帰る頃になってタカが逃げてしまった。疲れきっている部下たち
に「残って探せ」と命じた。命じられた部下がどんな顔をしたか、闇が迫っていたので、家光
にはわからなかった。
 城に戻った家光は老中の松平信綱をよびだした。そして「非番の部下を全部動員して、タカ
さがしの応援に行かせろ」と、いった。タカのことで頭がいっぱいだ。無理な命令だと思った信
綱も、そんな家光をよく知っているから、さからえば、よけい逆上すると思って「かしこまいりま
した」と答えた。
 
ーー主君と家臣をともに思いやる信綱の才覚ーー

  夜闇の動員を命ぜられた侍たちが続々集まってきた。
「何だ!」「火事か!」「反乱か!」と緊急動員の目的をさぐりあった。やがて「逃げたタカをさがし
に行くのだ」とわかって、「えっ!」と絶句した。
 が、それが本当だとわかると、こんどは一斉に不平不満の声があがった。こんな夜中に何だ、
大体、タカ狩りなんて将軍個人の趣味じゃあないか、私事に動員するのか、と、いろいろな文句
が出た。そういう文句を、松平信綱はじっと聞いていた。そして(侍たちが文句をいうのも、無理
はない)とおもっていた。
 信綱は侍たちにごちそうを出した。トリ料理だった。
 「今日、家光さまがすみだ川のほとりで仕留められたトリだ。夜分、苦労をかけるおまえたちに
とりあえず食べてほしいということだ」といった。
 ウソである。家光にそんな気くばりはない。そこで信綱が独断で行った才覚であった。が、侍た
ちは、へえ、と信じて食べた。その間、信綱は部屋の隅で何人かの書記に次々と小さな紙片に
何かを書かせていた。書記が書いたものを、じっと見つめ、ああでもない、こうでもないと注意し
た。
  ーー省略ーー
 みんながトリ料理を食べている間にかねてしらべてあった、すみだ川地域を、正確に地図にし
捜索隊を方面別にわけたのだ。出掛ける隊に「私は、皆が戻るまでここて起きてまっている。何
かあつたら、すぐ、使いをよこしなさい」といった。侍たちは周到な信綱の措置に感心しながら出
かけた。

 ーータカと部下とどちらが大切なのかーー

 それから、まもなく、家光から使いがきて、信綱に来てほしいといった。行くと家光はニコニコして
いった。
 「おい、タカが戻ったよ」
 「は?」
 「さすがおれの飼うタカはりこうだ。ひとりで戻ってきた。いま、小屋で寝ているよ」
 「……?」
 信綱は二の句がつげなかった。が。家光を詰っても仕方がない。家光はいった。
 「捜索隊を呼び戻せ。しかし、思い思いの方角に行っただろうから、さがすのが大変だな?」
 信綱は返事をしなかった。タカと人間とどっちが大変なのか?家光に腹を立てた。大急ぎで戻ると
書記に命じた。「さっきの紙片の控えで、捜索隊の行く先がわかるはずだ。すぐ呼び戻してこい」
「はい!」と書記たちは飛び出して行った。
 --省略ーー
 やがて全員が戻ってきた。
 信綱は「ごくろうだった。家光さまからも、くれぐれも礼をいってほしいということである」
 と、またウソをついて家光をかばった。しかし、書記たちの話で、侍たちはすでに信綱の自分たち
への気配りをよく知っていた。
 (この人は頭がいいだけではない。心の温かい人だ。何よりも部下思いだ)と感じていた。
 翌日、家光が信綱を呼んだ。
 「ゆうべはごくろう」といい
 「しかし、おまえはよくタカの逃げた方角を、いろいろと知っていたな?」といった。
 「は?」とききかえすと、家光は「何か方角の地図をつくったそうではないか?おまえがそこまで、
タカの心配をしてくれているとは思っていなかったよ」といった。
 信綱は、こう答えた。
「私が紙片をつくったのはタカのためではありません。部下のためです。捜索隊と、こんどは
その捜索隊をさがしに行った部下のためです」
 そういって家光をにらみつけた。家光はさすがに目をふせた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

なんだか、長くなりすぎちゃったわ。
     読むのに疲れたことでしょう。
     歴史上のひとの話っていいものです。
     いろんな立派な方がおられ、嬉しくなるのです。
    







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